冷蔵庫とマムシ取りの名人

引っ越しのおじさんに言われたのだが、僕の冷蔵庫は一人暮らしの人にしては大きいほうらしい。だけども大型の家電量販店の新生活セットなるもので購入したなかの一部、一人暮らしだとしても別にそんなに大きいわけでもない。さらに言うと、冷蔵庫を運ぶバイトをしていた僕にとって、自分の背丈もないほどの冷蔵庫は全く大きいとは思えないのだ。

その冷蔵庫を運ぶバイトというのは、大家さんのお店のお手伝いのことだ。町の小さな電気屋を連想するような店を経営している。奥さんがアパート経営、旦那さんが電気屋経営というもの。奥さん、旦那さんと言うが、実際はお婆ちゃんにお爺ちゃんだ。お爺ちゃん一人で冷蔵庫を運ぶことなんてできないということから、たまに僕が運ぶのを手伝っているのである。

先日のこと。その日も大家さんと一緒に、町外れの山の近くに住むという老夫婦の家に冷蔵庫を届けにいった。お客さん宅周辺は、久しく見てなかった田舎の風景だった。舗装されていない道路、目の前に見える山と田んぼ、うるさいくらいに鳴いているセミ。初夏を感じさせるような暑さを肌に感じながら作業をする。

冷蔵庫の重さは約70kg。その前日に90kg強の冷蔵庫を運んだせいもあってか、それほど苦にはならず、終始順調に作業は進む。

冷蔵庫の取り付けも終わると、老夫婦が飲み物を用意してくれてた。夏の労働後の冷たい飲み物ほど心を潤してくれるものはないと僕は思う。

どのような話の流れでそうなったのかは忘れたが、その老夫婦の旦那さんがマムシを捕まえたという話になった。今回が初めてというわけではなく、過去に何度も捕まえているというのだから僕は驚いた。俗にいうマムシ取りの名人だ。僕も詳しくは知らないが、マムシ酒の名前くらいは知っている。古来から蛇は神の使いといわれており、かつ毒をもつ蛇ということで神聖化され、酒として飲まれてきたのだろう。

名人が捕まえたというマムシは草むらの陰にある一升瓶のなかにいた。暗く、茶色の瓶であったことから中はよく見えなかったが、何かいるというのは感じた気がする。それは僕が巳年だからなのか、過去にカナヘビを飼っていたからなのか。たぶん関係ないと思う。

マムシは1?2ヶ月ほどそのまま放置して体内の不純物を吐き出させるという。その生命力にも驚かされるが、暗く狭い場所に数ヶ月も閉じ込められるというのもまた少し悲しく思える。