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帰り道

映画『耳をすませば』で、雫の父親はこう言った。

「人と違う生き方はそれなりにしんどいぞ」

6時間ほど前の話だ。大学の研究室からの帰り道、いつもより1つ前の鉄道駅に僕は降りた。特に理由はない。ただいつもと違う帰り道を歩きたかっただけだ。ただそれだけのこと。急用を思い出して大学に戻らなければならなかったわけではなく、事故が起こって已むを得ず降りなければならなかったわけでもない。

下車した乗客は僕1人だけだった。田舎の無人駅だ。疑問に思うほどのことでもなかった。僕は1両目に乗っていたので、最後尾の車両に乗っていた車両は急ぎ足で僕の元にやってきた。僕は切符を渡し、軽く会釈をした。すると、その車掌は小声で僕に言った。

「お気をつけて」

例えばタクシーから降りるとき、たまに運転手がそう言うこともある。何を気をつければいいのか、よくわからないが社交辞令みたいなものだろう。しかし、僕は今までそのようなことを言う車掌に出会ったことはない。お客様至上主義で通してきている日本社会、車掌が言っても決しておかしくない言葉だが今言う必要はあったのだろうか。

少しだけ不安を感じた僕は、乗ってきた電車を見送ることにした。まだ大勢の乗客が乗っていた。

違和感があった。

彼らが僕をじっと見ているような気がしたのだ。どうしてこの駅で降りるのか?という疑問の目が僕に突き刺さる気がしたのだ。もちろんそれは気のせいだ。よく見ると、乗客の多くは携帯電話を弄っていたり、本を読んだりしていた。

電車は僕を無視して次の駅へと向かった。車掌の言葉で少し混乱していたのかもしれない。いつもと違う帰り道を歩く僕の目には、まるで社会から隔絶されたようなどこか寂しい風景を映していた。