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紺色の帽子を被った子供

僕は幽霊を信じていない。見たことがないのだから信じれるわけもない。友人たちがそういった類の話をしていても僕は恐怖を感じなかったし、テレビ等で扱われる心霊現象なども鼻で笑っていた。きっと死ぬまで僕はそう思い続けるだろう。

しかし先日、少し変わった出来事があった。

今年の夏はとあるアルバイトをして、毎日のように郵便局に行かなければならなかった。1日に2回、3回も行く日もあり、お盆前には局員さんにも顔を覚えられるようにもなった。

8月下旬になり、僕はその日も郵便局に向かった。

「おはようございます」
「あ、おはよう。いつもご苦労さん」

局員さんの名前を仮にAさんとしておく。Aさんは陽気な人で、あまり郵便局で働いているような人には見えなかった。

「これを書留でお願いします」
「はい、ちょっと待ってな」
「今日も商店街は祭りの準備で急がしそうですね」
「土曜からだからな。そうか、もうあれから2年なんだな」
「あれって、確か子供が1人行方不明になったっていう事件ですか?」
「そうそう。親御さんが私の知り合いなんだけどね、未だに行方知れずなんだよ」
「え?そうなんですか?テレビとかで報道しないからてっきり・・・」
「まあな」

ちょうど2年前、街の子供1人が祭りの最中に行方不明になった。最初は単なる迷子かと思われていたが、翌日にも発見されなかった。警察は誘拐事件の可能性もあるとし、僕の家にも聞き込みが来たほどだ。

「ねぇ、家はどこ?」

急に後ろから声をかけられた。振り返ると子供が立っていた。小学校低学年くらいで紺色の帽子を被っていた。子供は俯いたまま、再び同じような言葉を言った。

「ねぇねぇ、家どこ?」
「どうした?」
「え?いや、なんでもありません。420円ですよね?」
「はい。ま、お前も彼女と祭りでも楽しめよ」
「彼女なんていないですよ」

振り返ると、先ほどの子供は出口へ向かって走っていた。外に出ると子供は見当たらず、遠くに母親と少女が手を繋いで歩いているのが見えた。郵便局の近くにスーパーがあるので、僕に話しかけてきた子供はそこから来たのだろう。

祭りの日になった。大学の友人数名から一緒に行こうという話があり、僕もそれに加わることにした。夕方に集合して、適当に買い食いしながら僕らは歩いていた。途中、これも仮の名前ではあるが、Bさんが話を振ってきた。

「2年前の事件ってまだ解決していないらしいね」
「俺もこの前聞いてびっくりした。もう見つかったのかと思ってたから」
「そういえばあの事件以来、夏になると変な子供が」
「え?」
「あれ?聞いたことないの?紺色の帽子を被った子供が声をかけてくるって」
「そんなの別に珍しくないじゃないか」
「そうだけど。でも、その子供の声に返事をすると呪われるらしいよ」
「ただの怪談話だろ」
「うん、でもちょっと怖いよね。だって事件と関係がないはずないんだし」

あとでAさんに聞いた話だが、紺色の帽子を被った少年の噂はかなり有名らしい。というのも、行方不明になった子供とそっくりそのままの格好をしているからだそうだ。目撃情報が多く、警察は子供の悪戯であるとし、行方不明になった子供の両親にも配慮してポスターを剥がすことを決めたらしい。

「呪われる、というのは?」
「それは知らんな。大学生が勝手に盛り上がってるだけじゃないのか?」
「かもしれません」
「その紺色の帽子を被った子供と会話しても特に何もないらしいしな」
「そうなんですか」
「私もまだ見たことがなくてね。1度は拝んでみたいものだよ、存在すればの話だけどな」
「見たことないって、この前ここにいたじゃないですか。僕の後ろに」
「いや、俺は知らないぞ。って見たのか?」
「よくわからないんですけど、見た、のかもしれません」

今でも僕の耳には紺色の帽子を被ったあの子供の声が残っている。

「ねぇねぇ、家どこ?」