I look up as I walk.

大学に入学して最初の講義でいきなりレポート課題を出された記憶があります。まだ高校を卒業したばかりで、レポートみたいな長い文章を書くことについて右も左もわかっていませんでした。まぁ今でもわかっていない感じで…。で、そのレポートの提出期限はその日から2週間後で十分に時間があったけど、新たな大学生活を有意義に過ごそうと思っていた僕はレポート課題を早々に処理して自分に自信を付けよう、と考えたわけです。

初日の講義が全て終わって、早速図書館に殴り込み。図書館広すぎワロタ、とか思ってたっけなぁ。そこまで大きくはないんですけどね。とりあえず図書館の3階、自習室というか机がだばぁと並べられたところに行き、本を読みつつレポートを書く。おぉ大学生っぽい!とか1人で興奮していました。馬鹿ですね。

その図書館の閉館時間は22時。もちろんレポートは1日で書き終わるはずもなく、こんなんでやっていけるのか…とか若干ながら気持ちが落ち込んでいました。大学構内は静かで明かりも殆ど消えて、そこが東京であることを忘れてしまいました。一息つこうと思い、近くの喫煙所に腰を下ろす。まだ18歳でしたし、タバコなんか吸わねぇ!と心に決めていた僕なので喫煙はNo Thank Youでしたが、ちょうど机と椅子があったので缶コーヒーを買って1人でボケーッとしていました。

ふと空を見上げると、なんということでしょう。星が、星が!ほとんど見えない…。なんぞこれ。星はどこ?どこ?さすがです。東京の端とは言え、ここまで見えなくなるものなのかとさらに気持ちが落ち込む。いやだってさ、周りはこんなにも真っ暗なのにどうして空に星が見えないんだ、と思うじゃん。東京のばかやろー。

近くに同じように空を見上げる女性がいました。何かぶつぶつ言ってるのでちょっと怖かったような…。あまり関わりたくねぇと思ってたらその女性のほうから話しかけてきました。いや、話しかけてきたというより、声の大きい独り言なんですかね。それを話しかけてきたものだと勘違いした僕は真性のアホです。どんだけ自意識過剰なんだよ。

「空、綺麗だなぁ」
「え?ただの黒い空じゃないですか?」
「・・・あー、あなたも空見てたんですか?」
「いや、なんとなくです」
「黒い空、と言いましたよね」
「えぇ、東京は星が全然見えないものなんだなと思って」
「見えますよ」
「は?(何この人、眼科行けよ)」
「たくさんの星が私には見えます」
「は、はぁ(はやく帰りてぇ)」
「私、実家が田舎で、たまに父と望遠鏡を持って天体観測していたんです。いろんな星を子供の頃から見ていたんです」
「つまりなんですか、あなたにはもうどこに何の星があるのかわかると?」
「いや、さすがにそこまではわからないですよ。でも、そこにはあるんです。見えなくても星は今も輝いているんです」
「でもやっぱり星は見えたほうがいいじゃないですか?たくさんの人に見てもらえた方が星も輝きがいがあるのでは?」
「面白いですね。そうかもしれないけど私だけでもその輝きに気づいていれば、それだけで星も元気になるんじゃないかなぁって。私のおかげで今も世界のどこかから星を見ている人たちの役に立っている。そう考えると自信が付くんですよ。ちょっと変ですけどね」
「自信・・・」
「はい、悩んでしまった時、苦しい時、私はこうやって見えない星を見ることで自信を取り戻しているのです」

その女性とはそれっきり会うことはありませんでした。なにしろそれなりのマンモス校でしたから、大学を歩いていても友人にすら会うことはなかなかありません。時々、僕も彼女と同じように自信を無くしている時に空を見上げるようにしています。東京を離れて星が見えやすくなった今、彼女は今もどこかで星を見ていて僕達に見える星を見せてくれているのでしょう。そうだ、上を向いて歩こう。それが少しでも彼女の自信に繋がるのであれば、僕は上を向いて歩こう