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とある小さな古書店の話

書店や図書館の静けさ、古書店の独特な雰囲気が好きな人の数はそう少なくないと思います。また本のインクの匂いや、日焼けた古本のかび臭さもその良さを引き出しています。本のある空間は一部のビブリオマニアに癒しや心地良さを提供しているのです。

海外在住中、とある街でブックカフェをみかけました。といっても日本のそれとは違ってカフェを基本にした店づくりではなく、あくまでも書店としての機能が優先されていました。店内には2組の小さな丸机と椅子、そして無造作に積み上げられた本、低い天井に届いてしまった本棚、それでも置き場所がなくて本棚の至る空きスペースに押し込められた本。まるで、そこがショップではなく個人の書庫のように思えてくるようなものでした。

店主は老人の男性。僕が入店してもそれに気付いていないかのように本を読み続ける。また、既にいた客もそれを気にせず黙々と本を読み続けていました。サービスというものは完全に欠如していましたが、そもそもサービスなんて必要ありません。自分が読みたい本を選んで、もし買いたければ買えばいい。いらっしゃいませ、なんて言葉はそこにはいりません。むしろ雑音でしかありません。

若い男性がやって来ました。特に選んだというわけではなく適当に1冊の本を取って、そして店主に話しかけました。

「コーヒー買ってくるからこの本売らないでくれよ」
「わかったよ。でも、誰もこんな本を買わないさ」

数分後、近くの喫茶店で購入してきたコーヒーカップを手に戻ってきた彼は、店主から本を受け取って椅子に座って本を読み始めました。僕は用事があったのでその後すぐにショップを出たのですが、2時間後くらいにまたそのショップを覗いてみるとその男性はまだ同じ本を読み続けていました。

結局、男性が本を買ったのか買わなかったのか、それはわからないのだけどそんな客がいて商売は成り立つのかと疑問に思いました。ショップの古本はどれも汚く、多くの本に飲み物を零したような痕がいくつもありました。正直、全く売れそうではない本ばかり。でもその街に住む友人に後で聞くと、ショップはかなり長く営業しているとのこと。利益なんてほとんどないだろうし、もしかすると毎月赤字経営なのかもしれない。彼に聞くとこう答えました。

「本はそこにあるだけで幸福をもたらしてくれるのさ」

1冊の本を読み終えると、そのすぐ横には別の本がある。それを手に取って読み、それが読み終わるとさらに別の本を読む。それをずっと続ける。大量の本に囲まれ、永遠に終わることのない読書リレーをするあの店主は、世界で一番幸せな人なんだろうな。