『映画 けいおん!』の人気と現代の社会状況の相関関係について

ようやくBDを友人から借りることができたので観てみた。ありがとう!T君!

まず最初にアニメーションとしての観点から述べると、さすがとしか言いようがない。ディティールもしっかりと作り込まれていて、ロンドンの街並みも自分自身の体験と重ねていろいろ思い出すことができた。幾多のライブシーンも見事、と言いたいところだけど本編2期の文化祭ライブシーンに比べると若干劣るか。それでも十分な作画が作品の魅力を引き出している。日常のゆるふわ、というのを丁寧に描き切ったところは言わずもがなではあるけど、京アニすげぇの一言。これだけのヒットにもうなずける。

ただ、以前から思っているように『けいおん!』という内容にどうしても感情移入というか賞賛することはできない。この作品には挫折、努力、哀しみというものは存在しない。特に苦労することもなくバンドを組んで音楽を創りあげていく。実際、バンドを経験した者なら誰でもわかると思うが音楽は非常に難しい。努力だけではどうしようもいかない点もあるし、バンドというチームプレイの中での人間関係などはしばしば悩みのタネになる。それらが全くといっていいほど描かれていない。

しかしそれもそのはず。この作品の主題は「誰もが夢見る高校生活」を物語化させたものであるからだ。『けいおん!』は理想物語である。人は皆過去に何かしらの後悔をするし、特に高校時代という特別な青春がそれらの後悔に埋められている人も少なくないと思う。挫折や絶望を望む人はほとんどいないだろうし、そういった意味では『けいおん!』は理不尽な現実社会から一瞬の逃走を試みる夢物語、良く言えば娯楽作品として非常に大きな意味を持つだろう。

そうしたことを理解してはいても、さすがに「内容がないよう…」と言わざるをえない。アニメーションと言えど物語である。物語が伝えるべきものとは何か、それは人それぞれに異なるとは思うが何においても一貫している点、それは「物語を通して現実社会を考える」だ。理想にまみれた娯楽物語も必要であるが、それは絶対的評価を得られるものではない。つまり、結局のところ誰もが言うように『けいおん!』は萌えアニメの代表作でしかないということを今作で証明した。

アニメーションは実写作品と異なり、現実で表現不可能なことを可能にさせる。だからこそ、アニメーションでしか描くことのできない物語がこれまで社会的に評価を得てきた。昨今の日常系アニメはそれらとは相反する。なぜか。現代社会における様々な問題に疲弊した人々が安らぎを得るために、二次元でしか表現できない可愛らしさや現実離れした爽快感をアニメーションに求めているのだ。今作の大ヒット(AKB商法として批判はあるけども)は、まさに今の若者や、社会の嘆き・苦しみを表現していると言えるのではないだろうか。